位牌を作らないとどうなる?費用や断り方・宗派別のルールを解説

位牌を作らないとどうなる?費用や断り方・宗派の常識を解説 仏教

近年、ライフスタイルの変化や核家族化、マンション住まいの増加などに伴い、伝統的な仏壇や位牌を持たない家庭が増えています。「位牌を作らないとどうなるのか」という疑問は、現代の住宅事情や経済状況を考えれば、多くの人が直面する自然な悩みと言えるでしょう。

特に、「浄土真宗では位牌はいらない」「真言宗では絶対に必要」といった宗派ごとの教えや慣習の違いがあり、インターネット上の断片的な情報だけでは判断に迷うことも少なくありません。また、位牌を作らないことによる親族間トラブルや、菩提寺との関係悪化を懸念される方もいらっしゃいます。

もし、位牌を作らない場合の正しい対処法や、位牌の代わりとなる現代的な供養の形を事前に知っておけば、後悔のない選択ができるはずです。この記事では、中立的な視点から、位牌を作らない選択のメリット・デメリットと、具体的な解決策を網羅的に解説します。

  • 位牌を作らないことによる法的な影響と、実際に削減できる費用のメリット
  • 本位牌を作らない時の「白木位牌」の正しい処分方法と、お焚き上げの手順
  • お寺や親族と揉めないための、角が立たない断り方の具体的な会話例
  • 宗派ごとのルールの違いや、リビングに馴染むモダン位牌という新しい選択肢

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そもそも位牌を作らないとどうなるのか

位牌を作らないという選択は、単に「木の札を作らない」という物質的な話だけではありません。その後の法要儀式や、親族などの人間関係、さらには遺族の心理状態にまで様々な影響を及ぼします。

ここでは、法的な観点だけでなく、気になる費用の差や、葬儀で使用した仮位牌の扱い、そして周囲への説明方法など、実務的な側面から「具体的にどうなるのか」を深掘りして解説します。

法律上の罰則や作成の義務について

法律上の罰則や作成の義務について

まず大前提として、位牌を作らないことによって法律上の罰則を受けたり、義務違反となったりすることは一切ありません。日本国憲法第二十条で保障されている「信教の自由」に基づき、どのような形で故人を弔うか、あるいは位牌などの祭祀財産(さいしざいさん)を所有するかどうかは、個人の自由な判断に委ねられているからです。(参考:e-Gov法令検索:日本国憲法 第二十条

したがって、役所への死亡届の提出や、火葬許可証の発行、遺産相続の手続きにおいて(参考:法務省:死亡届などの戸籍の届出について)、位牌の有無が問われることはありません。行政手続きと宗教的儀礼は完全に切り離されています。

ただし、法律的な問題がないからといって、宗教的なマナーや親族間の感情を無視して良いわけではありません。特に、先祖代々のお墓を受け継ぐ場合などは、民法上の「祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)」としての責任を問われる場面も考えられます(参考:e-Gov法令検索:民法 第八百九十七条(祭祀に関する権利の承継))。

ポイント

「作らなくても法的には問題ないが、周囲との調整や心情的な配慮は必要」という認識を持つことが大切です。法律ではなく、慣習やマナーの世界での判断が求められます。

位牌を作らない場合の費用と経済的メリット

位牌を作らない場合の費用と経済的メリット

位牌を作らない大きな理由の一つに「費用」があります。葬儀そのものにお金がかかる中で、仏具の費用を抑えたいと考えるのは自然なことです。実際に位牌を作る場合と、代替案を選んだ場合でどのくらい金額が変わるのか、一般的な相場を比較してみましょう。

供養の方法 費用の目安 内訳と特徴
本位牌(作成) 3万円〜10万円 +開眼供養のお布施 伝統的な黒塗りや唐木位牌の本体価格に加え、文字入れ代(彫刻料)がかかります。さらに、お寺で魂入れ(開眼供養)をする際、1〜3万円程度のお布施が必要です。
過去帳 3,000円〜2万円 家系図のような帳面です。仏具店や通販で購入可能。素材や紙質によりますが、位牌に比べて安価で、文字入れも自分で行えば無料です。
写真のみ 0円〜数千円 額縁代のみで済みます。手持ちの写真立てを使えば費用はかかりません。最も経済的で、すぐに始められる手軽な方法です。

このように、位牌を作らない場合は、本体価格だけでなく、お寺へのお布施なども含めて数万円から十数万円の出費を抑えることが可能です。経済的な負担を減らしたい場合、この差額は大きな判断材料となります。ただし、費用を削りすぎた結果、十分な供養ができなかったと後悔することがないよう、バランスを考えることも重要です。

なお、葬儀や供養に関する費用相場については、公正で中立的な情報源を参考にすることも大切です。(参照:国民生活センター「葬儀・お墓のトラブル」)などの情報も確認し、適正な価格判断を行ってください。

本位牌を作らない時の白木位牌の処分

本位牌を作らない時の白木位牌の処分

「本位牌は作らない」と決めたとしても、葬儀の際に使用した「白木位牌(仮位牌)」が手元に残っているはずです。通常は四十九日法要の際に本位牌へ魂を移し替え、白木位牌はお寺に納めますが、本位牌を作らない場合、この白木位牌はどうすれば良いのでしょうか。

結論としては、四十九日のタイミングでお寺や葬儀社に返却し、「お焚き上げ(焼却供養)」を依頼する必要があります。白木位牌には、葬儀の際に故人の魂が移されています。

そのため、これを単なる「木の板」として扱い、家庭ごみとして処分することは、宗教的に非常に不敬な行為とされ、タブー視されています。

注意点

位牌を作らない場合でも、白木位牌の処分には費用がかかる場合があります。「お焚き上げ料」として数千円〜1万円程度、またはお気持ち程度のお布施が必要になることが一般的です。無料で引き取ってもらえるとは限らないため、事前に葬儀社やお寺に確認しましょう。

菩提寺や親族への角が立たない断り方

菩提寺や親族への角が立たない断り方

位牌を作らない選択をする際、最も心理的なハードルが高いのが「お寺や親族への説明」です。特に年配の親族や、伝統を重んじる菩提寺(ぼだいじ)の住職に対し、無断で進めると「非常識だ」とトラブルになりやすいため、相手の立場を尊重しつつ、こちらの事情を伝えることが重要です。

ここでは、相手を不快にさせず、こちらの意図をスムーズに伝えるための会話テンプレートを紹介します。

住職へ相談する場合 「住職、四十九日に向けてご相談があります。実は、現在の経済的な事情(またはマンションが狭く仏壇が置けない等の住宅事情)もあり、今回は本位牌を作らず、過去帳での供養とさせていただきたいと考えております。住職にご指導いただきながら、失礼のない形で行いたいのですが、どのようにお願いすればよろしいでしょうか?」

親族へ説明する場合 「家のスペースの問題もあって、大きな仏壇や位牌を置くのが難しいんだ。これからは皆が集まった時に、リビングで写真を見て思い出話ができるような、現代的なスタイルで供養していきたいと思っている。形式よりも、毎日手を合わせる気持ちを大切にしたいんだよ。」

ポイント

「いらないから作りません」と一方的に通告(決定事項として伝達)するのではなく、「事情があってこうしたいが、どうすれば良いか」という相談(アドバイスを求める)のスタンスで話すと、相手もこちらの事情を汲み取りやすくなり、柔軟な提案をしてくれる可能性が高まります。

供養の対象がないことによる心理面

供養の対象がないことによる心理面

位牌は、仏教において「故人そのもの」として扱われることが多く、それがないことは遺族の心理的な喪失感に繋がることがあります。

葬儀直後は手続きに追われて気にならなくても、一周忌、三回忌と時間が経つにつれて、「手を合わせる場所がない」「故人の居場所が家の中にない」という寂しさを感じる遺族も少なくありません。

心理学的な「グリーフケア(悲嘆からの回復)」の観点からも、形ある「依代(よりしろ)」があることで、故人に話しかけやすくなり、心の整理がつきやすくなる効果があると言われています。完全に何もしないのではなく、後述する代替案などを検討し、心のよりどころを確保することをおすすめします。

宗派や供養法で位牌を作らないとどうなるか

位牌の必要性は、仏教の宗派によって教えが大きく異なります。「作らない」ことが正式なマナーである場合もあれば、教義上強く推奨される場合もあります。

ここでは、検索数の多い浄土真宗や真言宗などの宗派別の詳細なルールと、位牌の代わりとなる「モダン位牌」などの新しい選択肢について解説します。

浄土真宗や真言宗では位牌はいらないか

浄土真宗や真言宗では位牌はいらないか

インターネット検索でよく見られる「浄土真宗は位牌がいらない」「真言宗はどうなのか」という疑問について、宗派ごとの基本的な考え方を整理します。宗派によって「死」や「魂」の捉え方が異なるため、位牌の扱いも変わってきます。

  • 浄土真宗(本願寺派・大谷派など): 基本的に位牌は作りません。これは、亡くなると阿弥陀如来の力ですぐに仏になる「往生即仏(おうじょうそくぶつ)」という教えがあるためです。魂が迷って位牌に宿るという概念がないため、位牌は不要とされています。その代わりに「過去帳」や「法名軸」を用います。 (参照:浄土真宗本願寺派 公式サイト)などの公式情報でも、法名軸や過去帳の使用が解説されています。
  • 真言宗・曹洞宗・浄土宗・日蓮宗など: 基本的に位牌が必要です。これらの宗派では、位牌は故人の魂が入る依代として重要視されており、四十九日法要で「開眼供養(魂入れ)」を行うのが一般的です。位牌がないと、故人が戻ってくる場所がないと考えられています。

ただし、これらはあくまで原則論です。現代では浄土真宗であっても、「手を合わせる具体的な対象が欲しい」という遺族の希望により、位牌を作る方が増えており、お寺側もそれを禁止せずに容認するケースが多くなっています。

曹洞宗や日蓮宗など他宗派のルール

曹洞宗や日蓮宗など他宗派のルール

位牌を必要とする曹洞宗や日蓮宗などの宗派において「作らない」という選択をする場合、菩提寺との関係には細心の注意が必要です。これらの宗派で位牌を作らないことは、その宗派の伝統的な供養プロセス(魂入れなど)を省略することを意味するため、信仰のあり方を問われることがあります。

もし菩提寺がある場合は、必ず事前に住職へ了承を得てください。住職に事情を説明すれば、例えば「位牌の代わりに塔婆(とうば)を立てる」「過去帳で代用する」といった代替案を示してくれることもあります。

許可なく作らないでいると、納骨法要の際に「位牌がないと供養ができない」と断られてしまうリスクがあるため、自己判断は禁物です。

位牌を作らない供養の選択肢とモダン位牌

位牌を作らない供養の選択肢とモダン位牌

「黒塗りの古風な位牌は、今のリビングやインテリアに合わないから置きたくない」という理由で迷っているなら、完全に作らないのではなく、「モダン位牌」を選ぶという折衷案もあります。現代の供養は多様化しており、位牌を作らない供養の形も広がっています。

種類 特徴とメリット
モダン位牌 クリスタル製や、ウォールナットなどの木目調で作られた明るいデザインの位牌です。リビングのキャビネットに置いても違和感がなく、インテリアの一部のように馴染みます。
手元供養 遺骨の一部を入れるペンダントや、真鍮製のミニ骨壺などが該当します。位牌という形式にとらわれず、これらを故人の象徴として手を合わせる対象とします。
祈りのステージ 写真立てと小さな花立、おりんなどがセットになったコンパクトな台です。宗教色を薄めたい方や、無宗教形式で供養したい方に人気があります。

「位牌=怖い・古い」というネガティブなイメージをお持ちの方も、一度モダン位牌やクリスタル位牌を調べてみると、考えが変わるかもしれません。これらは「作らない」ことへの罪悪感を解消しつつ、部屋の雰囲気も保てる、現代における賢い解決策となります。

過去帳や法名軸を代わりにする選択

過去帳や法名軸を代わりにする選択

位牌の代わりとして、仏教的に最も推奨されるのが「過去帳」です。特に浄土真宗では正式な仏具ですが、他宗派でも「位牌が増えすぎて仏壇に入りきらない(繰り出し位牌に入らない)」といった理由で、複数の位牌を過去帳にまとめることがあります。

過去帳であれば、普段は閉じた状態で保管できるため場所を取らず、一冊で何代もの先祖の記録を残すことができます。また、見台(けんだい)に乗せて飾れば立派な供養の対象となります。「位牌を作るスペースはないが、故人の名前はしっかり残したい」という方には最適な選択肢です。

補足

過去帳への記入は、仏具店に依頼するか、住職にお願いするのが一般的ですが、ご自身で丁寧に記入しても問題ありません。日付入りのものであれば、命日にそのページを開いて供養することができます。

永代供養や手元供養を選ぶ時の対応

永代供養や手元供養を選ぶ時の対応

「子供がいない」「娘が嫁いで跡継ぎがいない」といった事情で、将来的に「永代供養」を考えているなら、個人で位牌を作らない選択は非常に合理的です。永代供養墓や納骨堂にお骨を納める際、お寺側で管理する大きな位牌や過去帳、または石碑プレートに故人の名前を入れてもらえるプランが多いため、個人で位牌を持つ必要がなくなるからです。

ただし、永代供養の契約内容は施設によって大きく異なります。(参照:文化庁「宗教法人と宗務行政」関連資料)などでも確認できるように、墓地や納骨堂の経営主体や契約形態は多様です。

「位牌の持ち込みは不可」という場所もあれば、逆に「位牌作成がプランに含まれている」場所もあります。契約前に必ず「位牌はどうなるのか」を確認しましょう。

まとめ:結局位牌を作らないとどうなる

  • 法的な罰則や義務はないが、宗教的な儀式や遺族の感情面での配慮が必要である
  • 位牌作成費用(数万円〜)を節約できる経済的メリットがある
  • 葬儀の時の白木位牌は、四十九日にお寺で「お焚き上げ」してもらう必要がある
  • 菩提寺がある場合、無断で作らないと納骨を断られるなどのトラブルになるリスクがある
  • お寺や親族には「相談」という形で、角が立たないように事情を伝えることが重要
  • 浄土真宗では教義上位牌はいらない(過去帳を用いる)が、作っても問題はない
  • 真言宗や他宗派では基本的に必要だが、事情があれば相談に乗ってもらえる
  • 「黒い位牌」が嫌なら、クリスタル製などの「モダン位牌」も検討する
  • 位牌の代わりに「過去帳」や「写真」、「手元供養」を選ぶ人も増えている
  • 永代供養を利用すれば、位牌管理の負担を次世代に残さずに済む
  • 形式よりも「故人を偲ぶ気持ち」と「家族が納得できる形」が最も大切である
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